振付家・康本雅子 インタビュー

2015年06月08日
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康本雅子

25才の時からダンス作品を作り始め、これまでに自作品を国内外つつ浦々にて公演する。そのほか松尾スズキ、白井晃の演劇での振付や、ゆず、一青窈、SalyuのMVやコンサートの振付、NHK「トップランナー」への出演等、多方面において活動。 


DSC01129 振付家 康本雅子

 

アーティストと企業と劇場がタッグを組んで作品を創る今回のプロジェクトはいかがでしたか?

今まで小学校でワークショップを行ったり、企業のCM振付などを手がけたことはあるんですが、私にとっては本当に新鮮な試みでした。今回のような劇場と企業が協働する中で、地域のための創作活動を行うのは初めての経験だったので、正直なところ最初は不安な部分もあったんです。こういうプロジェクトの場合、企画を仕掛けた側と受けた側の想いの熱量みたいなものにギャップがあると難しい面も出てくるので…。企業側がどこまで理解してくれて、積極的に関わってくれるんだろう?と気になっていたんです。ですが今回のプロジェクトでは、ワークショップやお祭りでのパレード、プロモーションビデオ(以下PV)の撮影などいくつかの段階を時間をかけてじっくり行っていった。その段階を踏む中で、企業側にも劇場と同じ想いやプロジェクトの意義が徐々に浸透していって、最後にいい作品を生むことが出来たと思います。スターフライヤーさんも、最初はどんなものになるのか想像つかなかったと思うんですね。でも一つやってみて、社内外で反響があって。また次につなげて、最後には一般市民の方と一緒にワークショップをやって。そういうプロセスを踏んでいく時間がお互いに必要だったと思うし、長いスパンで一緒に創っていけたのがよかったと思います。

 

創作の過程はどんな風に進めていかれたのでしょうか?

視察に行く前にまずホームページを見ました。黒い機体を見て、自分も個人的に乗ったことがあるのを思い出して「あ、忍者の安全ビデオ(※注/2014年8月まで)の会社だ」と(笑)。ひと言で言えばスタイリッシュなイメージ。それは視察に行っても変わらなかったですね。オフィスもすっきりと美しい印象で、色調もカッコイイ。そういう企業イメージは作品に反映させたいと思いました。振付では、グッと親指を立てて合図するような指サインのポーズを入れたり、飛行機のイメージや航空会社らしさも意識しています。もともとはPVにフォーカスしていたんですが、先にパレードがあったので歩きながら踊る振付をまずレクチャーしました。でもパレードを見たPVの監督・橘剛史さんが、「歩きながらの振りがいいのでそれを活かそう」ということになって。あの前へ前へと進みながら踊る感じがすごく良かったんですね。それが生まれたのはパレードが先にあったおかげだし、私にとっても新しい体験でした。

 

音楽を担当していただいたオオルタイチさんには、ちょっと宇宙的な感じでとお願いしました。飛び立っていく時のワクワク感とスペイシーな感じ。あとチャキチャキした感じもリクエストしました。というのも視察の時に、降り立った飛行機でわずかな合間にやる清掃を見せてもらったんです。その時の客室乗務員の方たちがすごくかっこよかったんですね。決められた時間に決められた所をパパパーッと流れ作業でキレイにしていって。手さばきや動きがキビキビしていた、その雰囲気を取り入れたいと思ったんです。もう一つ、インストゥルメンタルじゃなくて声が入った方がいい、ということも伝えました。よく聴き取れないような意味の無い言葉とか、タイチくんらしい非言語の“歌”がのってる感じ。出来上がってきた曲は、歌詞のように聞こえる部分とよく聴き取れない部分が混じり合っていい感じでした。

 

プロジェクトの過程で印象的だった出来事は?

そうですね。ダンス経験者の方もいらっしゃったので、皆さん振りもすんなり覚えてくださって。客室乗務員の方やグランドスタッフの方は基本的に姿勢がいいので絵になるなぁと思いました。あと、働いている人たちが純粋に飛行機が好きなんだな、というのも印象的でした。たとえばPV撮影の時に、スターフライヤーの飛行機がすぐ目の前で飛び立った時があったんですが、社員の皆さんが「うわー、行ってらっしゃーい!」とすごいテンションで手を振って見送ってたんです。空港で働いている人たちだから、そういうのは見慣れた光景だろうと思っていたから、私の方が驚いてしまって。純粋に一ファンなんですね。本当に好きで働いているのが伝わってきて、素晴らしいなぁと思いました。

 

PV撮影の時は、寒かったことと(苦笑)、撮影班の人たちが大変そうでしたね。スターフライヤーの担当の方が次から次へと撮影場所の移動を手際よく案内してくださったので、わりとスムーズに進んだんですが、何せ空港ですからセキュリティチェックが厳しくて。移動する時には必ず保安検査のゲートを通らないといけないんですね。カメラ班の人たちは、その度に機材をバラしたり組み立てたりして大変そうでした。

 

もう一つ印象的だったのは、今回のプロジェクト全般をよく取材していただいたこと。最初のワークショップからPVの撮影、お披露目、市民参加のワークショップまで。新聞記者の方が入られたり、TVのニュースに取り上げられたり。こういう取り組みって、せっかく何か面白いことや新しいことをやっても、一般の人々に知れ渡る機会があまり無いことが多いんですよね。なのに今回は、子どもの幼稚園の先生から「見ましたよ」と言われたり、まったくダンスに関わりの無い人にも「見たよ」と声をかけられたり。メディアに取り上げられることの大切さと可能性を感じました。そこからダンスに興味を持ったり、ダンス作品を観るきっかけに広がってくれたらいいな、とも思います。

 

康本さんにとってダンスとは?また、今回のようなプロジェクトを通して手渡したいものは?

自分で作品を創る時は、自分の身体にしか踊れないものを突き詰めて探っていくという感じ。狭い穴に入り込んでいくような作業をしますね。今回のようなプロジェクトの場合は、社員の方や一般の市民の方々が踊るのが前提なので、みんなが踊れるもの、踊りやすくて楽しいもの、最大公約数的なところを探っていく感じ。目指すところと焦点の合わせ方は違いますが、そこに向かって突き詰めていく点では同じだと思います。

 

よく思うのは、ダンスって単純に振りを覚えれば踊れるようになるじゃないですか。そこで「楽しいね」と満足しておしまい、になりがちなんですが、本当はそこから一歩広がる気付きの部分が大事だと思うんです。自分の身体で動いてみて、意外と動けない自分に気付いたり、そこからちょっと視点が変わったり。また他の人の動きを見て「ああ、この人ってこういうところもあるんだ」といつもと違う一面を発見したり。自分に対して、または一緒に踊る誰かに対して、たとえば今回の場合はスターフライヤーという会社に対して、これまでにない「見方」、つまり視点を変えた新たな魅力を再発見出来たらいいんじゃないかと思うんです。その再発見のきっかけが今回はたまたまダンスで、私が関わらせていただいたわけですが、そういう意味で言うと手法は必ずしもダンスじゃなくてもいいのかな、とも思います。

 

地域のアートレパートリーとして受け継いでいきたい作品がまた一つできました。康本さんとして今後の展開に期待するところは?

レパートリー…そう思うと創った責任の重みを感じますね(笑)。これがラジオ体操みたいな感じになるといいかもしれませんね。わざわざ踊るというよりも、曲がかかれば何となくみんなが思い出して自然と身体が動かせる、みたいな。たとえば、スターフライヤーさんの会議なんかで行き詰まった時に、「じゃあちょっと一曲踊って場を和らげよう」みたいな使い方をするのはどうでしょう?(笑)パレードなどで誰かに見せるのもいいけれど、日常で働く人が元気になるため、社内を活性化するために使っていただくのもいいかな、と思います。

 

 

 

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